見切り発車

いろいろ考えて、

構成を決めてから…と思っていました。

でも、書きたいことの方が、増え始めて

テーマやなんやらを考えていたら

いつまでも書けなくなってしまうのです。

だから、とりあえず、発車。

書きながら、考えていけたらいいかな・・・と思っています。

 

初恋のリップクリーム

和の精油・エピソード for October
~うるおいのプレゼント~

姉から電話があった。普段はめったに連絡を取らない姉妹である。
実は…と切り出されて、都内で一人住まいの母が入院でもしたかと、ドキッとした。
「あのねぇ、リップクリームって、手作りできるのかしら?」
はあ~っ?!っと、電話口でうわずった声をあげてしまった。手作りという名の付くモノには、おおよそ縁のない姉からそんな言葉が出るとは!
「藪から棒に、どうかしたのか」と聞くと「ん~、あゆみがね…」と話し出した。
あゆみというのは、姉の娘で今年高校に入った、明るいけれど特にめだつことのないどちらかと言えば大人しい女の子である。そのあゆみちゃんに、どうやらクリスマスにプレゼントを贈りたい相手ができたようだ。姉はその男の子が、西島孝太という一つ上の学年の先輩で、吹奏楽のクラブでサックスを吹いている、ということを聞きだした。
「それでなんで、リップクリームなの?」
姉と話をすると、肝心のところにたどりつくまでに、気の遠くなるような時間がかかる。かいつまんで言うと、孝太くんは学校でも人気があるので、単なるプレゼントではダメで、あゆみちゃんは必死に考えていた。たまたま文化祭で、放送部のスタッフとしてステージ袖に居た時に、準備をする孝太先輩が、唇を触ってリップクリームを塗っていたんだそうだ。練習で乾燥していて、口の端が切れて痛そうだったので、効き目のあるリップクリームを、となった。
「へぇ、そこまで観察してたの」と感心すると、姉は「あの子、私に似て、一途なのよねぇ」と言い、「親として心配しないの?」とつっこむと「大丈夫、並みな子だから、きっとふられちゃうから」と暴言を吐いた。
なんという親だとあきれたが、姉はそういう人だったと思い直し、私はかわいい姪の為に一肌脱ごうと思った。男の子用のリップクリーム。昨今男子用メイクアップ用品が売れているくらいだから、それぐらいは当たり前なのだろうか。とにかくあゆみちゃんに会って話を聞くことにした。
「おばちゃん、世界に一つだけのリップクリームにしたいの!」開口一番はこの一言だった。「それもね、効き目があって、香りも素敵な奴!」
私はどんな香りがいいのか、効き目は保湿だけで大丈夫かを確認した。手持ちのアロマオイルのサンプルを出して、香りを確かめさせる。あゆみちゃんは、若い女の子らしくフルーティな香りを選んだ。私は、それを男の子に使ってもらうのはきっと難しいよと話した。あゆみちゃんはうーんと考え込んだ。

孝太君のイメージは?
かっこいい。
おとこの子っぽいの?
うん。
どんな風に?
ええと…。

聞きだしてみると、いわゆる体育会系な汗臭さではなくて、グループのリーダーとして皆を引っ張っていくようなタイプ。

ふーん、じゃ少し落ち着いた感じに仕上げて、うっすら柑橘系が香るようにするか…。

管楽器で唇が荒れる。練習している時のくせで、唇をなめたりするんだろう。
学生の時、そういうクラスメートが居た。やっぱり何度もリップクリームを塗っていた。スティックタイプがいいの?と聞くと、うーんと再び考え込んだ。他のファンの女の子からスティックをもらっているのを見たことがあるらしい。

へえ、もてるんだね。

あゆみちゃんの眉間にしわが寄った。

じゃ、他になさそうな、ぬりやすくて面白いヤツにしようか。

私の頭に浮かんだのは、チューブ入りのリップジェルだった。ジェルの代わりに、ゆるいクリームにすれば保湿は充分、天然素材だけの食べても大丈夫なものも作れる。レシピを書いてあげるから、自分で作ってみてねと言うと、あゆみちゃんの口がぽかんと空いた。大好きな人にプレゼントするなら、自分で作らないとね、と言うと、やっと、できる?私にも?と心配そうに聞いてきた。

じゃあ、私の家で作ろう、一緒に。手伝うから。

次の日の夕方、あゆみちゃんがやってきた。なんだかとても緊張しているので、どうかしたの?ときいたら、二週間後に孝太くん達はクリスマスコンサートに出演し、孝太君のソロ曲があるのだという。その前に渡してあげたい!!!とあゆみちゃんは真剣だった。

大丈夫、むずかしくないからさ。

私の考えたレシピは、こんな感じだった。

  • 椿オイル 純正の一番搾り
  • みつろう これは、ゆるめに作りたいので、ハゼろうを使った。
  • 和の精油
    1.月桃
    2.小夏
    3.モミ
  • 容器[リップチューブ]

なんとか作り終えたのは、夜の8時過ぎだった。あとはチューブに入れるだけ。慎重にチューブにクリームを入れていくあゆみちゃんの頬が、ピンク色に上気している。その耳元で「まごころを一緒に詰めてね」と私はささやいた。パッと笑顔が生まれた。…いい笑顔だなと思った。
あゆみちゃんはチューブに詰め終わって、余ったクリームを自分の唇につけている。
私はキッチンカウンターに並べてあった、七色の小瓶の一つを手に取った。友人から紹介されて手に入れた、植物から抽出した液体。もともと染料に使うものだけれど、発色があまりにきれいなので、小瓶に詰めて売り出したところ好評らしい。蓋をはずし、小さなスポイトで数滴、余ったクリームに垂らした。紅の液体がクリームに落ちると、淡いピンク色が広がった。微かに薔薇の香りがする。木べらで丁寧にクリームを混ぜ、別のチューブに詰めて、あゆみちゃんに渡した。

ご褒美、がんばったから。孝太君とお揃いで使えるよ
使ってくれるかな~

そう言いつつ、2つのチューブを手のひらに載せて、あゆみちゃんは楽しげだった。
後日、クリスマスも終わった頃、姉から電話があった。あゆみちゃんはリップクリームを渡すことができたのだが、孝太君の反応はそっけなかったらしく、大分がっかりしたとのことだった。
「でもね…」と姉は一呼吸おいてから続けた。こらえきれずクスクス笑っている。
クリスマスコンサートで、舞台そでに居たあゆみちゃんに、ソロを終えて舞台から引き揚げてきた孝太君は、あゆみちゃんのチューブのリップを持って、軽く振ってみせたそうだ。

作: 青山 維
2014 10 22

声で伝える

IMGP0076このサイトの構想は、もう20年位前にさかのぼります。
漠然と声で何かしたいと思っていました。
文字で文章を綴ることは、ずっとやっていたことですが、
それを声で表現するところまで繋げて、その先へと考えていました。

もうひとつ。
これは物心ついた時からすでにあったことですが、
自然と言われるもの、自分を取り巻く事象の在り方から、与えられるものを
私なりに表現したいな…それらがどんな風に活用されて、何をもたらすのか。
おそらく、昔から、人と環境ってそういう風に循環している力の一端だったのだろうと思います。

人と自然とのつながりが切れていて…とか、時々聞きますが
つながりが切れているというよりは、働きかけに気づくことが少なくなった、
気がついてもそれが何なのかわからないで過ごしている…そんなようなことではないかと思います。

そんなことも、昔のお話などには、時々語られていて、それらを読みながら、ああこの間こんなことがあったな…と、
今の日常と結び付けてみたりしています。